鹿鳴館サロン
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官能文学辞典

   その一. 序文
   その二. 「読まなかった」
   その三. 「解剖ごっこ」
   その四. 「覗いていたもの」
   その五. 「お馬さんごっこ」
   その六. 「小部屋」
   その七. 「映画の記憶」
   その八. 「記憶している性癖」
   その九. 「消えた雑居ビル」
   その十. 「卒業アルバム」
   その十一.「特別編」
   その十二.「祖父の家」
   その十三.「ラジオ放送」
   その十四.「路地」
   その十五.「記憶から消えた女の子」
   その十六.【未定】

 


卒業アルバム

  中学生時代の卒業アルバムを開いた。そこには私がはじめて性器を見せ合った女の子がいる。 
  官能小説を書くことを生業とするようになってから、私は自分の小説に何度となく彼女を登場させている。彼女の名前を使うことで性的興奮を高めていたのだ。忘れるはずのない名前だった。 
  ところが、自分のクラスに彼女の名前はなかった。同級生だということを勘違いしているのかもしれないと他のクラスも探すが見つからない。クラスの女の子たちの顔を丹念に見つめ直した。何とか記憶は蘇る。それぞれの女の子についての記憶がある。私が性器を見せ合った女の子と親しかった別の女の子はすぐに見つかった。 
  他のクラスの女の子の顔も丹念に見つめ直してみる、さすがにそこには記憶にない顔も多い。そしてそこにも、彼女はいなかった。彼女の名前や顔、年齢を勘違いしているのか、それとも、そんな思い出そのものが、そもそも存在していないのか分からなくなった。同時に、あんなにも鮮明で、その後、何度も使った名前がなくなっているということは、他の自分の記憶も、けっこう違っているのではないかと恐くなった。 
  恐くなったが、それを確かめる方法については思いつかなかった。いや、もし、思いついてのそれは実行しなかったのではないだろうか。





















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