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官能文学辞典

「都会の底で」 —チャイルドパークのオーナー— 【執事】

 

 怒鳴りまくって机を蹴り飛ばし、一人会社を出た。それだけ怒っても会社の売り上げはどうにもならない。社員にやる気がないのだ。私に怒鳴られても、それを我慢さえしていれば給料がもらえるとしか考えていないような若者が増えた。
  昔なら、社員を怒鳴って車に乗り銀座に繰り出して遊んでいると一部の社員が銀座まで追いかけて来たものだ。何のことはないたかりに来たのである。それでもそうしたちゃかり者たちが会社の売り上げを伸ばしたものだった。
  今は、ガソリン代さえもケチって電車で新橋に出る。新橋だって銀座だと屁理屈をこねて焼き鳥で腹を満たす。怒った腹はふくれないが仕方ない。クラブどころか居酒屋もそこそこにして深夜喫茶で時間をつぶす。深夜の集金に回らなければならないのだ。
  これも昔は銀座の店で待っていれば各店長たちが売り上げを持って来てくれたところのものなのだが、今は自分で回る。しかも、三軒の風俗店の内、儲けの大きいのは一軒だけだ。
  それもチャイルドパークなどというわけの分からない店だ。店の女は滑り台だのブランコだの。そんな源氏名の女たちでは、自分の店の女を連れて深夜の寿司焼肉という気分にもならない。
  風俗店の経費で大きいものに、おむつとか、グリセリンがあるというのも私には理解できない。店長の変態で尊大なのも気に入らないが、とにかく儲かっているのはこの店ぐらいで、今となっては、この店の儲けで昼の会社の支払いも行う始末なのだ。
  これも昔なら昼間の会社の社員を、私が経営する風俗店の儲けで飲みに連れて行けたものだったのだから、今は情けないかぎりである。
  同じチェーン店でも深夜になるとコーヒーは不味くなる。その不味いコーヒーを飲みながら電話を待ち、儲けを回収する時間まで待つ。やることがないので小説など読んだりするようになった。健全なものである。風俗嬢たちとの浮いた話のひとつもない。相手がタンポポだの登り棒じゃあ仕方ない。
「風俗は雪だるまで儲けろ」というビジネス書を読んでいたら泣けて来た。そううまく行くものか、と、思ったら悲しくなったのだ。
  いい年齢のオヤジが目に涙を浮かべているのが珍しいのか向かいの女がこちらを見ている。日本人じゃなさそうだ。あれはあれで大した利益にもならないのだろうと考えながら、空のカップを自ら返してタクシーに乗った。最後にタクシーを使うぐらいしか今の私には贅沢がないのだ。
  電話の報告でその夜もチャイルドパークの売り上げがトップだと知ったのはタクシーの中でのことだった。

出典『都会の底で』サロンアンソロジー 鹿鳴館出版局

 


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