—ひ—


【悲哀】
  自らの責任で失ってしまったと考えるところの愛。
  幼児は母親に愛されていないと感じると、それが自分の責任であると思うようになる。そこに自己を否定しなければならない悲しみがあるのだ。
  同時に、激しい喪失感を抱く。
  これを埋めようとする行為がマゾヒズムなのだ。
  愛を失うような罪深い自分を罰し、そして、罰されることによって自分を対象に受け入れてもらおうとするのだ。そうすることによって、現在の目の前にある愛だけでなく、マゾヒストは遠い過去に喪失した愛をも取り戻そうとしているのである。

スペース




【非科学的】
  科学的快感のこと。科学的現象に「非ず」と付けると、科学が否定されるのではなく、少しばかり楽しい言葉になる。退屈な用語が快楽的用語に変化するのだ。この変化という言葉も非変化と書くと、なんだか不思議で楽しい言葉になる。非燃焼とか非落下とか非重力とか科学用語はたいてい「非ず」を付けると楽しくなる。
  ありえないもの。これは官能文学における重要な要素なのだ。従って、ありえない言葉を遊べない人には官能文学は理解できないし、ましてや、それを書くことはできない。
  官能用語にはこの原理は通用しない。非淫乱とか非陵辱とか非包茎と書いてもあまり楽しくならず、むしろ、まじめな雰囲気を醸し出すのだから言葉とは不思議なものだ。

 
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