—つ— 【衝立障子】 今ではパーテーションと呼ぶかもしれないが、衝立障子と呼ぶことによって、そこにワイセツさが出て来るのだ。官能文学でしばしば用いられるのは、保健室のベッドの向こうである。 「ケガの治療を受けながら、あの衝立の向こうには、美佐子が寝ているのだと思うと興奮した。私の目には衝立障子にうっすらと寝乱れる美佐子のシルエットが見えていた。いや、見えていたように思えていただけだったのかもしれない」 衝立もエッチなら障子もエッチなのだ。 | 【通過儀礼】 すべての妄想を現実に変換するために必要な儀式。 高級レストランでフレンチを食べる妄想は、高級レストランのドアを通過するという儀式を経てはじめて現実のものとなる。しかし、ドアを入ってもアルバイトの面接のためであったり、宅配の荷物を渡すだけだったり、入ってすぐにお金がないのに気付いて出てしまったりすれば、妄想は現実のものにはならない。しかし、通過儀礼はすんだことになる。通過儀礼があっても現実が満たされるとはかぎらないのである。 性の通過儀礼も、セックスのための相手を見つけても、必ずしも相手がノーマルとは限らず、通過儀礼はすんでも、妄想が現実にならないこともある。ゆえに、初体験の前には豊かだった性が、初体験後に色褪せるのだ。それは、妄想が現実とならなかったからなのである。 |