【つげ義春】
  昭和の退廃芸術をマンガとしてのこした天才。彼の描いた風景は平成の世で消えて行く。消え行くのは風景だけではない。風情も世情もエロスさえもが消えて行く。
  せめて天才の作品が永遠と読み続けられることを願いたい。





【土蜘蛛】
  背が小さく、手足が短く、太っていて、洞窟や岩の隙間で生活していた種族のこと。西洋ではドワーフと呼ばれていた。 自分たちの住む岩穴は、同種族にも見せることなく、ひっそりと暮らし、子供は、穴のさらに奥で育てた。

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 ところが、この種族には、おかしな癖があり、子供が大きくなり、自分の穴を出ると「お前はこの穴の子供ではない、谷間で拾った子供ゆえ、土蜘蛛でもない」と、自分の子供を脅すのだ。
  子供は自分が本当はどこから来たのかと不安になり、他の土蜘蛛の穴を覗き見ようとする。そこが自分の故郷かもしれないと思うからなのだ。草をかきわけ、穴を覗く。しかし、彼らは自分の故郷を見つけることができないまま、やがて諦めて自分の穴を造り、そこに棲みつき、子供をもうける。
  今はなきこの種族の血の記憶が残っているのだろうか。今なお地方によっては「お前は橋の下で拾った子だ」と、子供に聞かせる伝統が残っていたりする。そして、それを聞かされて恐怖した子供は、自分の出て来た穴を探して覗きマニアとなるのである。
  覗きマニアのことが土蜘蛛と言われるようになったのは、そうした昔話しゆえのことである。

 
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