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官能文学辞典

旅先にあった窓

 観光地にほど近い大きな駅のシティホテルに、私はようやく口説きおとした美人と泊まっていた。たくさんの金と時間をかけて、ようやく私は彼女を旅行に誘い出したのだった。
  ただでさえ宿泊料金が高いのに、それとは別にホテルで食事をし、さらにルームサービスのワインまで頼んだ。
  そして、好きでもない海の話をしていた。話に退屈しながらも、もう少しのガマンで、この女の裸を目にすることができ、なお、それに触れることができるのだと思うとわくわくとした。
  そんな私がワイングラスを片手に彼女のどうでもいいような子供時代の話を聞いていたときだった。大通りを挟んだ向かいにある同じようなシティホテルの一室に私は肌色の塊を見つけたのだ。
  それはちょうど手にしていたワイングラスと同じ程度の大きさにしか見えないが、しかし、それが全裸であることははっきりと見分けられた。パンツさえつけていなかった。
  肌色の塊はすぐに小さくなった。窓に横向きに置かれた椅子に座ったのだ。しかし、肘掛のない椅子だったので、座っても全裸であることは分かった。もう、私にはバスローブでベッドに横になって話す彼女の子供時代の話には集中できなくなっていた。
  全裸なのは、細身で髪の長い男であることもすぐに分かった。そして、彼が部屋の見えない部分に向かって笑いながら何かを話しているらしいことも分かった。全裸のまま、彼は誰と何を話しているのか気になった。その頃の私には、まだ、全裸のままで女と一緒にいるということが変態行為のように思えていたのだった。
  男は笑いながら、椅子の向かい側の壁に隠れて見えないほうへと消えた。すると、その見えない部分から別の男が現れたのだ。出て来たのは少し太り気味で髪に白いものが混ざる初老の男だった。その男は椅子の前に立ち、やはり笑いながら股間を見えない部分に突き出すようにしている。突き出したものの大きさや状態までは分からない。
  何をしているのかも分からなかった。
  見ていると、男二人は何度か椅子のある見える部分と壁の向こう側の見えない部分との間を交互に行き来していた。私の部屋で自分の話に熱中していた女はいつの間にか寝息をたてていた。その寝息を聞きながら私がワインをグラスに注いだとき、初老の男と入れ替わって女が椅子に座った。女も全裸のままだった。あわてた私はあやうくワインをこぼしそうになった。女も笑っているように見えた。男たちのものはよく見えないのに、女の股間の黒さは目立って分かった。胸は大きいほうだった。笑うからだろうか、その胸が上下に揺れる様子まではっきりと見ることができた。
  女は大きく両手を打つような仕草をしながら椅子に座った。大笑いしているのかもしれない。座ったまま両足を壁で見えない部屋のほうに向かって拡げた。そして、また、消える。
  替わって椅子の前に現れた初老の男がやはり股間を突き出すと、その股間に手が伸びてきた。女の手だった。
  しかし、見えたのはそこまでだった。そのまま部屋の電気は消されてしまったのだ。しばらく待ったが、その部屋の電気がつくことはなかった。
  私は二泊三日の旅行で来ていたので、次の夜にも、その部屋を見るチャンスがあった。昼間、柄にもなく水泳などして、夕方からはオシャレな観光地の居酒屋で酒を飲んだ。一緒の女を早く寝かせたかったのだ。彼女を寝かせ、ゆっくりとあの部屋を眺めたかったのだ。
  そして、その夜。
  私の望み通り、女は疲れたのか早々に寝てしまい。私は再びあの部屋の様子を眺めることに成功した。
  部屋の様子は同じだった。昨夜と同じように男二人が全裸のまま入れ替わる。それ以上のものはなかった。ただ、一度だけ、全裸の女が椅子の上に立ったとき、初老の男がその股間の部分に頭を埋めたのだけが前夜とは違う光景だった。
  何をしていたのか、彼らの関係は何だったのか、いっさいは分からないままだった。もう一泊したかったが、そうも行かず、私はその土地をあとにした。
  ようやく口説いた女は、旅行先でセックスもしないような男に呆れたのか、そのまま、ただのいい友達となってしまった。それでもいい。私はどんな美女とセックスするよりも刺激的な夜を過ごすことができたのだから。

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