【変身願望 (その一)】
ないものねだり。
変身願望とは、自分を別の自分にしたいという望みではない。むしろ、自分にはないものを獲得したいという望みなのだ。正しくは変身ではなく獲得願望なのだ。
たいていの女性は一度は男になりたいと望むものだ。その理由はペニスで女を貫くという快感を体験してみたいと望んでいるからなのだ。しかし、そのとき、たいていの女は、この辞典の著者、すなわち私のような小さくて皮かむりのペニスでもいいとは思っていないはずだ。大きく逞しいペニスを想像しているのだ。
たいていの男性は一度は女になりたいと望んでいる。しかし、女なら何でもいいというものでもない。アイドルのような愛らしい女になることを想像している。
つまり、変身ではなく、自分にない、逞しさや美しさや人気を得たい、と望んでいるのである。

変身願望と性同一性障害は同義語ではない。

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【辺塞】
  異端の者たちが築く辺境の地の要塞のこと。
  異端の者たちは、幼い頃より日常に阻害され、その誰もが、辺境の地へと追い込まれるものなのである。そして、その地で要塞を築くのだ。その辺境の地で築きあげた要塞は、外敵から身を守るためのものではなく、味方の侵入を拒むためのものなのである。
  つまり、内にも外にも味方はなく、孤独の城壁が両側に聳え立つ、その場所にあるもの、それが変態なのである。
  孤独なる辺塞。孤独なる変態。異端の者たちは、常に一人なのである。

 
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