【ワンコイン小説】
  この辞典の著者は三文エロ小説が書きたかったのである。しかし、三文小説と言ったところで、今の人にはピンとは来ないだろう。まあ、現代的な言い方をするなら、ワンコイン小説だ。ワンコインは五百円にしておこう。
  たとえば、五百円もらって、著者がさらさらと小一時間で小説を書く。五百円はもらっているわけだから、どんなものを書いて欲しいかぐらいの要望は聞くが、細かな打ち合わせはしない。それでも自給五百円だから安いものだ。
  もちろん、原稿は書きなぐり。直したりは出来ない。辻褄など合わない。小学生が銀座のシャネルのお店で、たまたま食事に来ていた還暦前の大学生にナンパされたりするのだ。それでも、小説にはなるものだ。
  しかし、辻褄が合わず、いい加減だからと、悪いことばかりではない。思いつき、勝手気ままなので、奇想天外な面白さも出て来る。

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  ピザの配達に行ったら、たまたまズボンのチャックが開いていて、そこからペニスが見えていた。それを見たピザを頼んだ女子大生が「ずいぶんと立派なモチモノね。ねえ、ピザのサービスに、その太いソーセージをつけてくれない」などと言ったりする。こんなストーリーはまじめには書けない。まっとうな原稿料でも書けない。しかし、五百円なら書いてもいいだろう。五百円で書いて、読む人は十円ぐらいで読むわけだ。十円だから、たいていの出来の悪さには納得するわけだ。
「ああ、小さいモノが中で暴れてるわ、私はこういうペニスが好きだったのね」と、前半で言ってた女が「もう無理よ、大き過ぎてアソコが壊れそう」と、絶叫していたりする。どんなペニスだよと思うが、そこは何しろワンコインだから、まあ、いいかと思うわけだ。
  そんな小説を著者は書きたかったのである。

【ワンダーフォーゲルWandervogel】
  山の拘束。

 
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