鹿鳴館サロン
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官能文学辞典

   その一. 序文
   その二. 「読まなかった」
   その三. 「解剖ごっこ」
   その四. 「覗いていたもの」
   その五. 「お馬さんごっこ」
   その六. 「小部屋」
   その七. 「映画の記憶」
   その八. 「記憶している性癖」
   その九. 「消えた雑居ビル」
   その十. 「卒業アルバム」
   その十一.「特別編」
   その十二.「祖父の家」
   その十三.「ラジオ放送」
   その十四.「路地」
   その十五.「記憶から消えた女の子」
   その十六.【未定】

 


解剖ごっこ

  杉浦裕香は、私よりひつとだけ年上だったが、実際の年齢より、かなりお姉さんのように私には思えていた。 
  月に一度か二度、私の家に泊まりに来る。おそらく裕香の家の事情で私の家にあずけられていたのだろう。 
  彼女が来ると必ず、私たちは「解剖ごっこ」という遊びをした。彼女が博士、私がクランケと呼ばれ、私は彼女によって解剖される。解剖にはルールがあって、クランケである私は全身に麻酔を射たれ、痛みは感じないのだが意識はあるという状態になる。解剖されながら話をするのだ。 
「今、手を切断しました。手がなくなってしまった気持ちはどうですか」 
「とっても悲しいです」 
  と、そんな会話がされていたのだ。 
  夏休みなどはながく彼女が泊まるので、近所の男の子たちも集めて、この「解剖ごっこ」が行われた。 
「こんなに男の人たちがたくさんいる中で全裸にされて、どんな気持ちですか」 
「とっても恥ずかしいです」 
「みなさん、でも、麻酔されているのでこのクランケは抵抗はできません。これから、このクランケのオシッコの部分を取り除きます。これで、このクランケはお尻からしかオシッコができなくなります」 
  そうした遊びは小学校四年ぐらいまで続いていたと思う。私のアソコにはうっすらと毛が生えてきていて、それが恥ずかしいからと「解剖ごっこ」に男の子を入れるのは嫌だと抵抗したことがあった。 
  その時、裕香は言ったのだ。 
「贅沢言わないでしよ。本当は私がクランケやりたいのに、あんたじゃあ博士できないから仕方なく私が博士やってあげてるのに」 
  私はドキリとした。そして、気づいてしまったのだ。私もクランケを楽しんでいたのだということ。そして「解剖ごっこ」のときに、もっと酷いことをしてもらいたくなって彼女にごねてみせたのだということに。 
  その後、裕香は私の家には来なくなった。 
  ところが、最近になって、両親に、裕香のことを尋ねたら、両親はそんな女の子は知らないし、親戚に杉浦なんていないと言うのだ。近所にもそんな苗字の知り合いはいなかったし、それに、女の子がしばしば家に泊まりに来ていたなんてことはないと言うのだ。 
  杉浦裕香。フルネームではっきりと覚えているのに、彼女はいったい誰なのだろうか。そんなことがあるのだろうか。 
  私は、今もなお、彼女がやってくれた「解剖ごっこ」に憧れている。それに憧れたままM女になって、SMクラブにまで勤めた。しかし、彼女ほどのプレイをしてくれる相手はいない。あの脳をくすぐられるような快感を私に与えてくれる相手はいない。それでも、私は彼女との「解剖ごっこ」を求めてSMプレイを繰り返すのだ。たぶん、これから後、一生、それを繰り返すのだ。





















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