江戸の末期、娘が用を足していると何やら気配が。時刻は丑三つ時、恐々と振り返ると、壁に目があるではないか。娘は、悲鳴を上げようにも、何しろ、下半身が晒されたままでは恥ずかしい。じっとガマンして厠を出る。
目のあった壁を見たが穴などない。
その話しを友達にすると、なんと、次々と似た話しが出てきた。中には、用便がガマンできずに路地で用を足したら、そこにあるはずのない壁が突然、現われ、そして、その壁には、確かに目があったと言うものまであった。
娘たちは、これを壁の妖怪だと言うようになった。まだ、用足しを覗きたい人間がいるということのほうが、妖怪がいるという話しより信憑性の薄かった時代の話しである。
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出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局
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