鹿鳴館サロン
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官能文学辞典

   その一. 序文
   その二. 「読まなかった」
   その三. 「解剖ごっこ」
   その四. 「覗いていたもの」
   その五. 「お馬さんごっこ」
   その六. 「小部屋」
   その七. 「映画の記憶」
   その八. 「記憶している性癖」
   その九. 「消えた雑居ビル」
   その十. 「卒業アルバム」
   その十一.「特別編」
   その十二.「祖父の家」
   その十三.「ラジオ放送」
   その十四.「路地」
   その十五.「記憶から消えた女の子」
   その十六.【未定】

 


小部屋

  祖父の葬式のためにその家を訪れたのは五年ぶりのことだった。 
  小学生の頃には、夏休みとえば祖父の家に泊まっていたものだった。同じようにいとこの朱美も祖父の家に泊まりに来ていて、二人はよく一緒の遊び、一緒に寝かされていたものだった。それは四年生ぐらいまで続き、五年生になると二人の祖父の家に行く時期はずらされ、そして、中学生になると私は祖父の家には行かなくなってしまっていた。 
  祖父が死んだのは高校二年の夏休みだった。祖父は私に会いたがっていたということで、その夏休みには、もともと祖父の家に泊まりに行く予定だった。その予定が葬式になってしまったのだ。 
  葬式の次の日、私もいとこの朱美も祖父の家にいた。互いの両親は帰ったのだが私たちは残ったのだ。他にも叔母などが残っていたが、孫で残ったのは私たちだけだった。 
  祖母は意外と元気で、朝から、大人になったら顔を見せずに、おまえたちは冷たい、と、怒鳴りまくって私たちを驚かせた。 
  お詫びにと私たちは裏庭の草むしりを命じられた。 
「覚えてる、あの部屋でのこと」 
  切り出したのは朱美のほうだった。私は、なんとなく、あのことを隠しておいたほうがいいのかと気を使っていた。 
「覚えてるよ」 
  同じ年齢の朱美はあの頃から、どこか大人っぽいところのある少女だったが、今はすっかり色気が出て、むき出しの膝さえもが私を誘惑するほどだった。 
  朱美とは、祖父の家の小さな部屋に隠れて、怪しい遊びをしていたのだ。 
「玩具の注射器で私のお尻に浣腸したの覚えてる。私、すっごい泣いたよねえ」 
「子供って、何も分からないから酷いことするものだよな」 
「きっちゃんはとくに酷かったと思うよ。あの注射器の中身が水じゃなくオシッコだったの私、見てたんだから」 
「そこまで覚えてないよ」 
  よく覚えていた。その時、私は、注射器に入れたオシッコをお尻の穴に注入するのがこんなに気持ちいいなら、おちんちんから直接オシッコを入れたら、どんなに気持ちいいかと考えていたのだ。 
「ねえ、あの布団部屋、後で行ってみない。私、きっちゃんに会うのと、あの部屋をもう一度見るのを楽しみに、今回、来たんだ。お祖父ちゃんには悪いけどね」 
「いいよ。でも、布団部屋はおかしいだろう。ここは旅館じゃないんだから」 
「そうだよね。でも、それじゃあ、あの部屋は何だったの。まさかお祖父ちゃんの家でクローゼットルームはないでしょ」 
「そうだな」 
  確かに不思議だった。何しろ、その部屋は二畳程度の小さな部屋だったのだ。畳はなく床だったが、家具ひとつ置かれていなかったのだ。 
  私たちは、草むしりをいい加減にして切り上げると、その部屋に向かった。私は自分の前を歩く美人のいとこの姿にドキドキとしていた。何しろ二人は互いの陰部を晒し合った部屋に向かっているのだ。 
  農家の祖父の家は大きく、二階建てで階段が二箇所にあった。その一つを昇って、使われていない客間の奥にその部屋はあった。あったはずだった。
  朱美は、廊下の奥にある小さな洗面台の前で振り返って私を見つめた。何を言っていいのかが分からなかったのだろう。私も同じだった。改築した様子はない。その洗面台は古いものだった。 
「ここだよねえ」 
  ようやく朱美が口を開いた。 
「何を勘違いしているんだろうな、しかも二人して」 
  その後、私たちは祖母に小部屋の存在のことを尋ねたのだが、祖母は、そんな部屋はないと言った。そもそも、そんな小さな部屋を何のために造るのか、と言い返された。 
  私たちは押入れか何かと勘違いしているのかもしれないということで納得した。 もっとも、それよりも、私にとって重要だったのは、もし、その部屋があったら朱美はそこに二人で入ってどうするつもりだったのかということのほうにあったのだった。





















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