男は重い足取りで畑を歩いていた。腕の差なのだろうか、その畑の野菜は自分の畑のものよりも大きく色よく見えた。実際に、食べても美味しいと評判の野菜だった。
しかし、その野菜を育てる者との話し合いは不毛なのだ。村を代表させられて、もう何度も男は足を運んでいる。
「冗談じゃねえ。どうして、自分の畑でやることに文句を言われなきゃならん。自分の畑で何をしようと勝手だ。それを見る子供がいるというなら、そりゃ、そいつが悪い、覗きだ。他人の畑を遠くから覗くような子供は、こっちじゃなく、子供のほうを躾したらいいじゃないか」
彼の言い分ももっともだった。
どこで知り合うのか、彼は都会から若い娘を連れて来ては怪しい性の遊びをしているのだ。それも部屋の中でなら、女を縛ろうが鞭打とうが勝手だが、彼はそれを畑でやるのだ。
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確かに広大な彼の畑であるから、遠くからなら何をしているのか分からない。鞭打たれてのたうつ女も白い塊のようにしか見えない。しかし、好奇心の強い子供はどうしても、その白いくねくねとしたものの正体見たさに畑に入ったり、双眼鏡でそれを見ようとしたりしてしまうのだ。
「爺ちゃん。くねくねが出たよ」
「見たのかね」
「見ないよ。だって、くねくねを見たら、そいつは狂ってくねくねになってしまうんだろう。爺ちゃんが言ってたじゃないか。オレ、買ってもらったばかりの双眼鏡を持ってたけど見ないでガマンしたんだ」
「そりゃよかった。あんなものの仲間になったら、お前、夏休みが終わっても家には帰れなくなるからな」
子供は思った。くねくねはやっぱりいたのだと。
その子供は、夏休みが終われば、畑に出るという白いくねくねを自分が見たという話を皆に出来るのだと思い、胸が躍るような気持ちになった。
出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局
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