女将はずいぶんと酔っていた。さえないお客の相手で話もはずまないから、ただ、ただ、酒を飲んでいたのだ。男も同じように飲んでいたから、二人してずいぶんと酔っていた。
だからなのだろうか、女将は男の世迷言に、つい、付き合ってしまったのだ。
男は酔いの勢いにまかせて、小便をかけてくれ、顔の上で糞をしてくれと女将に言った。世迷言だが、女将は酔いも手伝って、できるものならやってごらんと言ってしまったのだ。
二人は店では臭いが残ると、川原でことに及ぶことになった。男はすっかり酔いが冷めていた。何しろ、美人で有名な女将が自分の目の前、本当に文字通り目のまん前で糞をすると言うのである。男は興奮していた。
はたして男の欲望は叶った。ただし、すんなりとはいかず、出そうで止まる女将の糞を待って、すっかり夜更けとなっていた。その上、川原の水で軽く洗い流せばという話は、春先のこととはいえ、まだまだ寒く男にはたいそう辛いことになった。
女の糞を食べた。興奮して、身体に塗った。自らのものにも塗って射精もした。しかし、その途端に男は酔いも興奮も冷めて、すっかり後悔し、自分のした愚か過ぎる行為に蒼褪めていた。人は糞など食べて平気なものなのだろうかという恐れもあった。
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そうして家に帰ると、男の女房が驚いた。何しろ、男の身体からは糞尿の臭いがする。そして、男は憔悴しきっているのだ。酒の飲み過ぎか女遊びでもして帰ってくる男をきつく叱ろうと待っていた女房は、それどころではなくなった。
「何があったんだい。汚い、糞が付いてるよ。ああ、口からも臭いがする。糞でも食べたようだよ」
「そうなんだよ。おまえ、恐ろしいことがあったんだ。夜道に迷った小さな女の子を助けて家を探してやったら、家人によろこばれて、飯を食え、風呂に入れと言われてな。断るのも悪いと風呂に入っていたら、コンコンと狐の鳴くのが聞こえ、はっ、としたら、おまえ、なんと肥溜めにつかっていたんだよ。あわてて川で身体を洗ったら、狐のやつら、こっちを見てぴょんと逃げて行きやがった。騙されたんだよ狐のやつらに。きっと馬糞の饅頭も食わされたに違いない。謝礼の金子はもちろん枯葉と石ころだったしな」
スカトロ趣味などという性癖は想像すらつかない頃の話ゆえ、女房はこの話を信じてしまう。そして、それをいいことに、この男、この後も、何度か狐に騙されることになるのだった。
出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局
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