昭和も終りの頃だったろうか。私は当時、変態や性犯罪者の取材で忙しかった。
その日もトイレ覗きの変態を取材していた。
「まず、男子トイレのトイレットペーパーを全部捨てるんですよ。それからなら、女子トイレにいるところを見つかっても紙がなかったから取りに来たって言えるでしょ」
なるほどと思った。
「覗くときは、便器に鏡を落としておくんです。それを個室の壁の上とか下の隙間から見ればアソコが見えるような構造のトイレがあるんですよ」
鏡など置いてあったら怪しむのではないだろうか。
「可愛い手鏡を置いておけば、誰かが落として、汚いから拾えずに行ったんだって思うわけですよ。意外と女性は平気なものですよ。だいたい、ほとんどの女性は鏡があることにさえ気づきませんからね。面白いのはそれからです。紙がなかったりして、あわてている女性に上からトイレットペーパーを投げ入れたり、下の隙間からポケットティッシュを挿し入れたりするんですよ。ああ、覗かれてたんだ、恥ずかしい姿を見られたんだって、そう感じている女性を見るのがたまらなくいいんですよ」
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同じ頃。
私はオカルト雑誌の取材もしていた。ちょうどその頃、エロ雑誌と同じぐらいオカルト雑誌も売れていたのだ。
「トイレのお化けでしょ。知ってます。○○駅のトイレに出るんですって。紙がないって思ったら、上から紙が降ってくるらしいですよ」
「聞いたことあります。○○公園のトイレで紙がないと思ったら、おまえが欲しいのは赤い紙か黄色い紙かって言われて、答えないと戸が開いてしまうんだって」
「便器の中に目があったって話も聞いたことあります」
「便器の中に小人がいて、おまえのアソコはキレイだなって言うって聞いたけど」
因果関係はない。
しかし、トイレの妖怪と私はお茶を飲んだのかもしれないのだ。昭和の終わり頃の名古屋の喫茶店で。
出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局
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