墓地の横の道は決して細くなかった。深夜とはいえ車も通る。もし、車が通れば、そこに全裸で歩く自分の白い肌が照らし出されてしまうことになる。そう思うと、彼女は膝が震え、何度もしゃがみこみそうになった。
草の匂い、虫の声、彼女はたった一人全裸で歩いていた。これまでにも野外で全裸にされたことはあった。野外でセックスさせられたこともある。しかし、彼がいなくなり、たった一人にされたのははじめてだった。
怖かった。夜がではない。墓地がではない。襲われて犯されることでもない。襲われて殺されることでもない。彼女は全裸の自分が変態と蔑まれることを怯えていた。あんな程度のスタイルをよく他人の前に晒せるものだとからかわれることを恐れていた。
しかし、恐怖は快感に変化していく。その波は止めようがなかった。震える膝が太ももに震えを伝えると、それが陰部ではじけて快感となって全身を駆け巡るのだった。
墓地の出口に差し掛かったところに人影があった。彼である。彼はミディアム丈のワンピースを彼女に被せ、陰部に小型のバイブを挿入すると、そのままタクシーに乗って帰って来るようにと言った。
抵抗は無駄だった。抵抗すればするほど彼を愉しませるだけなのだ。
彼の車がものすごいエンジン音を上げて走り去った。
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仕方なく彼女は通りに出てタクシーをひろった。深夜だというのにタクシーはかんたんに見つかった。バイブは容赦なく彼女を刺激し続けた。ただでさえ彼女は露出に興奮していたのだ。漏れそうな喘ぎ声を押し殺して、なんとか行き先を告げた。
もう、それだけで余裕はなかった。バイブの音は彼女には大きな音に聞こえた。同じように運転手にも聞こえているのではないかと心配した。
ようやく家に着いたときに、彼女は自分がお金を持たされていないことに気づいた。すぐにお金を取って来るので、と、タクシーを待たせて家に急いだ。限界だったのだ。玄関を入るとバイブはあまりの彼女の濡れように、抵抗なくするりと床に落ちてしまった。
しばらくするとチャイムが鳴る。
「あのう、こちらの奥様がタクシーに乗車しまして、そのう、料金がまだ」
運転手が玄関に出た男に言い難そうに料金の請求をした。路地を少し入っているので、この家だという確証が運転手にはなかったのだ。
「ああ、それは迷惑をおかけしました。おいくらでしょうか」
男は料金を払った後、こう言った。
「ご苦労様です。しかし、女房は一年前に死んだんですよ」
運転手が蒼褪めて車にもどった。彼女の座っていたシートはぐっしょりと濡れていた。月の綺麗な晩で雨など振ったはずもなかったというのに。
出典『妖怪は変態』山口師範著 鹿鳴館出版局
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